今治市(旧玉川町)出身。「生まれた時から生き物が好きだった」と言う山本さん。大学では生物を専攻し、卒業する年に科学博物館がオープンするということで地元愛媛に帰って就職。それから13年間、博物館で調査研究や展示、普及活動などの業務に携わっていました。
3年前、同博物館の同僚と2人で、自然科学教室『西条自然学校』を始めました。博物館の仕事とは別に行っていたその活動の中で、石鎚ふれあいの里を利用。環境に恵まれたこの施設に対して、様々な活動提案を行っていましたが、「する人がいないなら自分でやるか」と考えるようになりました。
安定した県職を辞めることに、奥さんの理解は得られたものの、親や上司は猛反対。「本気で何かをやろうとしている人にやめろという根拠はどこにあるのか、私の一生に対する責任を持てるのかと逆に問うんですけど、(責任を持つのは)無理ですよね。観察には体力を使うんですよ。自分が何年動けるのかと考えると、例えば桜が観察できるのはどんなに頑張っても一生のうち50回か60回。あっという間です。それなら、しようと思うことをできる間にやらないとと思って」と山本さんは言います。
同施設の指定管理者は、地元の連合自治会。平均年齢68歳の地元の人と交わりながら、山本さんはペンキ塗りから草引き、畑仕事など何でも行います。仕事の割合は管理業務5、普及業務4、調査研究1。「今はストレスがないですね。建物の中にいたのでは解らないことが多くあり、山の中にいるから解ることが非常に多い。それをどこまで吸収して表現できるかは自分次第」。お話し会や体験教室など、昨年度開催した自然教室は80回。また、公民館だよりやフリーペーパーへの寄稿、ホームページからの発信など、「一人ではそのぐらいが限界」という量の仕事をこなしました。加えて自治会の様々な行事や、外部からの依頼も舞い込み、たいへん多忙な1年となりました。
「昨年は忙し過ぎたので、2年目の今年は少しペースを落とそうと思っています。ふらっとやって来たお客さんが何か体験できるように、いろいろな体験メニューを用意する予定です。この施設自体の認識を『フィールドで勉強できる施設』に変えていきたいと思っています」。大学生や高校生の実習も受け入れています。
「ここでの体験教室は、『こんにゃくは何故固まるか』『草木染めは何故染まるか』というところを必ず取り入れています。物を大量に消費する時代になって、知識もインターネットから簡単に手に入れては大量に消費されて、人がだんだん物事を深く考えなくなっている。こんにゃくが何故固まるのかなんて考えもしないで食べていますよね。
私が特に思っているのは、いろいろな事柄に対して、それがどういう仕組みで起こっているのかという本質的な所に目を向けるきっかけを作りたいということです。題材は身近に無数にあるけれども、まだ考えている事の3分の1もできていないですね。化学も物理も生物も、実は衣食住と深く関わっている。それを再認識するのが、全部の教室を通してのテーマです」。
「今の日本人は、学校教育でサイエンス(科学)をちゃんと学ぶ機会に乏しいんですよね。それで社会に出て環境問題に直面する訳ですが、環境問題はそもそもサイエンスなので、それに立ち向かうツールがないんです。勉強する機関も機会もない」。それならその機会を作ろうと、毎月第3水曜日、『夜の学校』と題してお話し会を開催。大人が仕事帰りに立ち寄ることができるように、時間と場所を設定しています。
「20代、30代、40代の人に知識を持ってもらって、その人たちの子どもに伝えてもらいたい。子どもを対象にすることはありますけど、子どもは親の価値観で育っていきますし、大人になったら地元から出る人も多い。僕も愛媛に帰ってこないと思っていましたから…。だから、子どもを育てる親世代に働きかけていきたいと思っています」。
「西条は凄い所で、海から山まで全部あるんです。しかもかなり大きい干潟もあるし、山は西日本一高いでしょ。いろいろな環境が一つのまちの中に詰まっているので、生物や環境を研究する人にとっては、こんなに良い環境はないと思います」と山本さんは言います。
はじめはログハウスに通してもらったのですが、あまりもの素晴らしい周りの自然に誘われて、今回は屋外でお話を伺うことにしました。丸太椅子に腰掛けると、川から吹く風が時折冷たく感じられました。それでも、川のせせらぎの音やウグイスやセキレイの声に包まれて、最高のロケーションでのインタビューとなりました。
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