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2010年1月号掲載

ふるさとの記録を初展示 〜川之江村『役用記』〜


 四国中央市川之江町のかわのえ高原(たかはら)ふるさと館で1月17日まで開かれている『古文書でわかる庄屋さんの仕事展』に行ってきました。江戸時代、宇摩郡川之江村の役人を務めた大庄屋がまとめた公用記録『役用記(やくようき)』をもとに、そこから分かる庄屋さんの仕事内容、当時の村の姿や人々の暮らしなどが紹介されています。


 川之江村『役用記』は、寛延2年(1749)から明治4年(1871)までの75冊が現存。川之江村最後の大庄屋だった猪川(いのかわ)家が保存していたもので、川之江町時代に町役場に寄贈されました。現在は市指定文化財として川之江図書館で保管されています。当時の村政記録が一村でこれだけ多く残っているのは全国的にも珍しく、当時を知るたいへん貴重な史料として郷土史家らにより解読や研究が進められてきました。
 役用記を扱った展示が行われるのは今回が初めて。各所から注目を集めています。

 同館学芸員の木浦美雪さんが、展示の案内をしてくれました。


役用記が書かれた頃

当時の川之江村の絵図

 江戸期の川之江は、統治していた大名・一柳家が寛永19年(1642)に断絶してから天領(幕府領)となり、明治維新まで松山藩が預かって管理していました。陣屋が置かれ、藩から役人(武士)が派遣されてはいるものの、庄屋を中心とした住民による自治が行われていました。

 また当時の川之江は、金比羅街道・阿波街道・土佐街道が交差する交通の要所。百姓の多くは、農業だけでなく、布を織ったり酒を造ったりという商工業を兼ねていました。漁業、廻船業も盛んで、一つの村に「農漁商工」が混在する、当時としては特異な村でした。


庄屋さんの仕事とは

かつての大庄屋・猪川家に残る品々。
家紋は「丸に洲浜(すはま)」という縁起の良い紋。

 展示室に入ると、家紋が入った幕の前に、裃(かみしも)や刀、火事装束、道具など猪川家に残る品々が並んでいました。いずれも実物ですが、当時の物とは思えないほど完全な姿で残されています。
 裃の上に掲示されている横長いお触れ書きのようなものは、陣屋から村役場(庄屋)に出された「年貢割付状(免状)」。これだけの年貢を納めなさい、ということが書かれています。

 庄屋さんの最も大きな仕事は、年貢を集めて領主に納めること。そのために人口調査や土地の把握を行い、戸籍も管理していました。また、村外へ出かける人に往来手形を発行したり、賭博・窃盗・喧嘩のような軽犯罪の取り締まりや裁判を行っていました。今で言う、市役所、警察、簡易裁判所の役目を請け負っていた訳です。庄屋さんの仕事は実に多岐にわたるものだったようです。
 川之江村の庄屋は、郡内の天領十五ヶ村を束ねる大庄屋を兼ねており、江戸時代、そのような庄屋を「十村庄屋(とむらじょうや)」と呼んでいました。


役用記に書かれていること

 役用記は村の公用記録で、いわゆる市役所の記録のようなもの。幕府や藩からの通達、年貢や小物成(こものなり=米以外の雑税)、人口その他の統計、発行した証明書、軽微な裁判の判決など、村役場が係わった事柄が記されています。
 また、その時々の事件や出来事も記載されています。干ばつなどの自然災害や、別子銅山の人手不足による人夫派遣の要請があったり、幕末には砲台場の建築も行われています。中には、太鼓台同士で喧嘩をした若い人をとがめて浜蔵入りの刑に処したとか、身元不明人問い合わせの記述などもあります。「人が生きた足跡の、本当に生々しい記録ですね」(木浦さん)。大塩平八郎の人相書きの手配やイギリス船来航の噂など、当時の世相や歴史にかかわる出来事も記録の中から読み取ることができます。

 役用記は、このような事柄のすべてが年の初めから終わりまで日付け順に記され、1冊の帳簿にまとめられています。展示では役用記をコピー製本したものも置かれており、こちらは手に取って中を見ることがきます。


受け継がれるふるさとの記録

 順路の終わりに展示されているのが「田辺ノート」。元川之江高校教諭で郷土史研究家の故・田辺敬一さんが退職後11年かけて役用記を書き写したもので、大学ノート140冊にも及びます。

役用記を現在の文字に直して書き写した「田辺ノート」(実物)。右はその部分。
市民ボランティアが入力したCD版「役用記」

 同氏は昭和60年に東広島市に移住する際、これらを1冊残らず市立図書館に寄贈。そのノートを元に役用記をデジタル化しようという話が持ち上がり、市民ボランティアを募って平成12年から入力作業を開始。最終的には中学生から80代の40人が協力し、膨大な史料は3年半かかってデジタル化されCD1枚に収められました。

「これだけの量の古文書を一人で解読されたことは、なかなか類を見ないのではないかと思います。CDは、スクロールしていくと出来事の順に見ることができてとても分かりやすいので、私自身も何かを調べたい時にたいへん重宝しています」(同)。

 CD版役用記、役用記のコピーは、川之江図書館で閲覧可能です。


 「人が生きた足跡がこのような形で残っているのは、歴史を学んだり研究している人にはたまらないのではないでしょうか。歴史は人間の行動のデータ。それを今に照らし合わせて未来を見ていくのに、このような古文書のデータはすごく貴重なものですし、これからも研究が進められていくと思います」と話す木浦さん。取材時も、平日にもかかわらず人の訪れが絶えることはなく、市民や歴史ファンの関心の高さがうかがえました。
 「田辺ノートをデジタル化した時から、いつか展示をしたいと考えていました。当時の歴史が載っているものですが、あまりに情報量が多いので、テーマをどうするか話し合い、今回は庄屋さんの仕事を取り上げました。役用記に見る地域の歴史など、これから第2弾、第3弾の展示もしていきたいですね」


かわのえ高原(たかはら)ふるさと館

 「ここに来れば川之江の歴史がわかる」をテーマに平成11年1月にオープン。1階は常設展示、企画展示。2階の市民ギャラリーは個人やグループが発表の場として利用。会議室や和室の貸し出しも行っています。
 小高い山に立っており、2階展望デッキからは川之江城を中心とした町並みが一望できます。

 ●開館時間 午前9時〜午後4時
 ●入場料 無料
 ●休館日 月曜日・祝祭日の翌日、年末年始

所在地=四国中央市川之江町2217-83
電話=0896-28-6260

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