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【自然花・れんげ草】最新号
   『教育情報』代表コラム (2006年9月)
当たり前の生活を

取り戻す

 先日、小学生や中学生らにお年寄りの人たちと一緒に童謡『七つの子』を歌ってもらおうとしたのですが、子どもたちが歌詞を知らないので合唱にはなりませんでした。子どもたちが知っているのは、替え歌の「カラスなぜ鳴くの カラスの勝手でしょう」という歌詞なのです。この童謡の本来の歌詞は、「カラスなぜ鳴くの」という問い掛けに対し、「カラスは山にかわいい七つの子があるからよ」と返しています。無邪気な問いに、愛情深く返事をしている親子の情景が思い起こされます。
 童謡『叱られて』の詩も、現在の子どもでは到底想像もつかないだろうと思われる内容です。大正年間に作られたこの詩は、まだ親元が恋しい年頃の子どもが、どこか奉公に出ている様子が表現されています。募る寂しさを一生懸命にこらえながら、親元に帰る日を励みにして仕事に精を出す姿が想像できます。「夕べさみしい村はずれ コンときつねがなきゃせぬか」。私が生まれるずっと以前の光景をうたったものですが、何か懐かしく感じる詩です。
 私にも、『叱られて』の詩を彷彿とさせるような思い出があります。小学生の時、牛のエサやりを忘れて父に叱られて、夜遅く草刈に行かされたことがありました。昭和30年代の、しかも標高数百メートルの山村のことです。すっかり忘れて遊んでいたのですから行かされるのは仕方がないとはいえ、真っ暗な夜の山道を出掛けて行くのは心細いものです。明るい懐中電灯などもなく、薄暗いカンテラを下げての夜道です。山で育った私でも夜はまた別で、ちょっとした物音にもビクッとしながら無我夢中で草を刈って家に戻りました。あの時の切なさと必死の思いを今もよく覚えています。
 子どもの頃に口ずさんだ童謡の歌詞の中には、親子の情愛や家族の温かさ、自然の美しさや年中行事の楽しさなどが盛り込まれていました。どこででも見られる家庭の風景であり自然の景色であった訳なのです。メロディーもやさしさやかわいらしさや寂しさなど、心模様がよく表されているものばかりです。童謡を核としたまちづくりが各地で行われていますが、昔を懐かしむという次元ではなく童謡の中に、 教育力を見出しているからではないかと思います。
 私は、少年や若年者の起こす事件が日常茶飯事のように報道される今の時代を憂います。心が『キレた』状態になっての犯行が多いのです。踏み止まる心がどこかになかったのか。行いをいさめてくれる人が周りにいなかったのか。そこにいたる過程のどこかに、回避できる余地はあったはずであろうにと残念に思うのです。
 文部科学省は、乳幼児の段階で規則正しい生活リズムが形成されると情緒的に安定するとの研究結果を受け、『キレる』子ども対策の一環として乳幼児にまで『早寝早起き朝ごはん』運動を拡大するそうです。親が深夜まで起きているのが普通になっているので、乳幼児まで夜型になっているケースが多いと聞きます。夜遅く立ち寄ったコンビニや大型ショッピングセンターで、親に連れられた幼い子どもをよく見かけます。子どもが早寝早起きが当たり前であったのは一昔前のことなのでしょう。親が生活スタイルを変えない限り、子どものリズムも変わりません。
 私は早起きを、もう何十年来提唱し、実践し続けています。太古の時代、人間は日の出と共に身体を起こし日の入りと共に身体を休めていました。自然の営みに則して作り上げられてきた人類の身体のリズムが、近代化したここ百年ほどの間にそうやすやすと変化するものではありません。夜もこうこうと明かりの灯る現代の生活は、人の心身に無理を生じさせているのです。早寝早起きという当たり前の生活を取り戻した時、少しは落ち着いた社会が再現されるかもわかりません。事は急を要します。


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