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私にとって『お袋の味』とは何だろうと考えますと、やはり手打ちのそばだろうと思います。種を蒔いてそばを育てるところから始めるのですが、山の斜面一面に広がる真っ白いそばの花や、刈り取ったそばが自然乾燥のために幾段ものはで木に掛けられている光景は、郷里を象徴する景色そのものです。つい最近まで、石臼をゴロゴロと回してそばを挽いて粉にしていたものでした。今も時折そば粉を送ってもらいます。つなぎを使わないそば粉100%の手打ちそばは、とても切れやすく短いのですが、それが私にとっては何とも懐かしい自慢のそば切りです。
私は故郷を離れてすでに40年近くになります。現在住んでいる場所は大きな漁港に程近く、何かイベントがあるごとに魚のすりみを油で揚げる『じゃこ天』の模擬店が出ます。揚げたての味は格別で、おいしいことが良く知られているので、店はたちまち大盛況となります。揚げたてのじゃこ天は、買えない人も出るほどの人気なのです。あつあつのじゃこ天に醤油をちょっと掛けて食べると、ごはんが進みます。このように全国各地に、地域の特産品を使ったその地特有の料理があって、それが伝統的な郷土料理となったりお袋の味になったりしています。
現在のお袋の味は、袋に入ったレトルト食品や冷凍食品である、と揶揄されるようになってもうかなり経ちました。そこまでではないにしても、私たちの世代がお袋の味と感じているものと、今の子どもたちが感じるものとではメニューがかなり異なっているのだろうと思います。ハンバーグやカレーやグラタンなどをお袋の味として、感じている世代も出現しているかも知れません。いずれにしても忙しい中にもちょっと手間をかけて手作りの料理を心掛け、子どもと共に食する機会を持つのは、子育ての基本的な部分であろうと思います。
この度、松山市三津浜商店街の一角に小さな厨房を設けました。NPO活動として行っている高齢者の人たちへの配食サービスは、別の配食センターがすでに稼働しているのですが、さらにもう1つ作った訳なのです。名前は『わいわいキッチン・倫薫坊』。まちのお総菜屋さんでもなく、料理教室でもありません。若い人たちがそこに集まって、自分の味を作るけいこ場にしてもらえたらと願っての開設です。言わば『お袋の味』づくりの
場なのです。
『倫薫坊』では、同じ世代の人が集まってわいわいがやがやと意見を出し合って、自分たちで考えて献立を決めたり調理をしてもらおうと思うのです。金銭に糸目を付けず、高価な食材を使って美味しい料理を作っても、それは家庭の味にはなり得ません。限られた予算の中で、いかに買いものをして美味しい物を作るか。あるいは今ある食材を活かして、どのような料理を作るか。あれこれと知恵を絞って工夫するのが、家庭料理の楽しさだろうと思います。
判らない所は、これもすぐ近くに開設した高齢者のサロン『倫薫の里』に集う方々にお知恵を拝借すれば良いし、どんどんと尋ねて教えてもらえば良いと思っています。調理器具の扱い方、食材の良し悪しの見分け方、魚のおろし方、出しの取り方等々。先人の知恵を大いに取り入れさせてもらえば良いのです。ここに世代間の交流が生まれます。そのようにしながら、次世代に残す自分の『お袋の味』を作り上げていってもらいたいと思っています。
教育の在り方が問われている今、教育としつけの基本は家庭であることに立ち返って、子どもをしっかりと育てていくことを考えなければなりません。作る喜びを感じ、食べてもらう喜びを感じるところから、安定した食生活が始まります。若い人たちが、時には子どもも交えて賑やかに、倫薫坊のキッチンに集う光景を思い浮かべています。
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