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   『教育情報』代表コラム (2007年7月)
鎮守の森の

おにぎりとだんご

 ダムの貯水量が気になる昨今です。梅雨らしいお天気の日が続いて、石手川ダムの貯水量が上がっているニュースを聞くと、ほっとする思いがいたします。もう1つ気になっているのが、食品の安全ということです。食品の偽装事件が後を絶ちません。品質の偽装であったり、産地の偽装であったりする訳ですが、どうして他社の事件を自社の教訓にしないのかと不思議に思います。北海道の食肉加工業者の偽装事件は、後から後から信じられない実体が明るみに出て、ただただ驚くばかりです。このような偽装が氷山の一角でないことを願うばかりです。
 また外国から輸入される食材についても、不安材料が多々あります。口に入るものを自給自足できればそれが一番安心で安全でしょうが、そういう訳にももいきません。ほとんどの消費者は、店に並んだ商品の表示を信用して購入するしかないのです。
 先月の中旬、ジュニア練成会の子どもたちを連れて、私の生まれ故郷・徳島県三好市東祖谷で田植えをしてきました。最近では学校で田植え体験をすることも少なくないのですが、祖谷の田植えはまた別物であろうと思います。私の実家がある集落は一昨年の暮れに『伝統的建造物群保存』の地区となり、この集落の中で米を作っているのは2軒しかありません。急斜面を切り開いた集落ですから、田んぼ自体がたいへん珍しいのです。
 その時に収録したビデオを見ると、子どもたちの田植えをしている姿の真下に、実家の屋根が見えています。そのくらい急峻な地で、我が家の先祖は代々米を作ってくれていたのです。平面を少しでも確保するために高く積み上げた田んぼの石垣も、保存の対象となっています。石の組み方はたいへん丁寧で美しい模様を作り上げています。石垣の前には市が設置したのか、立派な説明用のパネルができていました。
 子どもたちの感想は、田植えも面白かったけれども昼食時に食べたおにぎりやだんごが美味しかったということでした。田植えの時には従来、親戚や近所の人たちが手伝いをし合う訳ですが、今回は何も知らない子どもたちが来るとあって、田植えの指導と共に田舎の味も用意をしてくれていたという訳です。鎮守の森でシートを広げ、持参した弁当は後回しにして、きな粉をまぶした丸いおにぎりと小麦粉を練って栗あんを入れただんごを先にほおばっていました。
 だんごは叔母が作って保存しておいたあんを入れてくれたそうで、栗あんなら大ごちそうです。遠来の人たちをもてなそうとしてくれる心を感じます。ほくほくとしたそぼろ状のあんは大好評でした。砂糖と塩を入れたきな粉のおにぎりやだんごは、運動会の重箱にも法事の会席にも、人寄りの時には必ず出されていたものです。
 田植えに汗を流した後、森の大樹に囲まれて食した田舎の素朴な味が、子どもたちの印象に強く残ったのだと思います。日頃、美味しいものを食べ慣れてはいるけれども、手作りのものが持つ味わいや、作り手の心が伝わってくるスローフードの優しさを感じ取ったことでしょう。
 食品のことで、偽装工作の心配をしなければならない時代が来るとは思ってもいなかったことでした。食肉のように料理の材料となる時点で偽装が行われれば、消費者には打つ手がありません。家族が口に入れるものを作る時、果たして偽装をするでしょうか。より安全で安心なものを食べさせてあげたいと思うでしょう。工場で生産するようになろうが、大量に生産するようになろうが、人を相手にしていることを忘れては困ります。
 いくら法律で決め事を作っても、いくら罰則を強化しても、それを守る人もいれば守らない人もいます。頼れるものは、扱う人の価値観と倫理観ではないでしょうか。


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