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   『教育情報』代表コラム (2007年12月)
気になる出会い

     機内にて

 先日、東京へ行っての帰りに、飛行機の中でちょっと気になる出会いがありました。その時は、いつも予約する席が取れずに羽根の近くに座ることになりました。離陸してしばらくして、隣りに座っている人のただならぬ気配に気付いてしまったのです。たまたま隣同士に座ることになった訳なのですが、乗り込んだ時から、何か暗い印象を感じていました。
 私は飛行機に乗ると、離陸すると直ぐにほとんど決まって眠りに就きます。その日もさっそくうつらうつらしていると、しくしくと泣いている女の人の夢を見ました。少し頭が覚醒した時に、実はそれが夢ではなくて、隣の座席の女性がしくしくと泣いていることに気が付きました。何気なく顔を見ると、20代だと思うのですけれども、目をすっかり泣き腫らしておりました。その様子を察して、起きたばかりとはいえ私の脳は素早く回転をし始めました。「この人は、何を思って泣いているのだろうか」「隣りに座っている私はどうしたものか」と、あれこれと一瞬のうちに考えている自分がいました。
 元来、見て見ぬふりのできない性格なものですから、とりあえず声を掛けてみることにしました。「旅行ですか」と尋ねると、「はい」と返事をします。「四国には時々来られるのですか」とさらに尋ねると、「初めてです」と答えました。「どこを旅行するつもりですか」と聞いてみると、「どこか海の近くが良いし、そうでなければ四国カルストの方に行こうと思っています」と言いました。私は、「古い家並みの内子も良いし、道後温泉へ行くと足湯もありますよ」と話しました。
 私から見ますと、どうも『死』さえ覚悟して旅をしている様子に見えるのです。「冗談ですけれど」と前置きをして、「失恋したので、旅行でもしようと思っているのですか」と言うと、「それに近いです」と答えました。人間関係で悩み、心が不安定な状態になっているようです。隣りに乗り合わせたのも縁だと思い、「もし道に迷ったり、道が判らなくなったら、後で名刺を渡しますから私に電話をかけてみて下さい」と言いました。
 その人は「はい」と返事をしましたが、目は伏せたままで心は落ち込んでいる様子です。「道というのは、人が生きる道もあるんですよ」と少し話をしますと、私の言わんとすることを理解してくれたようでした。空港に到着して下りる際に、カバンから名刺を取り出して渡しました。乗客の大半が荷物を持って飛行機を降りようとしているのに、その女性は座り込んで私の名刺をじっと眺めていました。
 飛行機に乗って人に話しかけることなど滅多にないのですが、放ってはおけない雰囲気を感じました。それで声を掛けてみたのです。その女性が飛行機から降り立った後、どちらに足が向いたのかは判りませんが、縁あって隣の席に座った私の話しかけた言葉が、その人にとって心を動かすものになればと思います。電話がかかってくることはありませんでしたが、私が名刺を一枚渡したことにおいて考え方を変えて、少しは心に元気をつけて東京に戻っていてくれたらと念願しています。
 私は今までに多くの人から様々な相談を受けて、その都度できうる限りのアドバイスをして参りました。また若輩の頃より、先輩諸氏が困難を抱えた人に対して、生き方のアドバイスをしてきた例もたくさん見てきております。それら全てがデータとなって、私の中に残っています。ですから困難に面している人を見た時に、放っておけない気持ちになるのです。
 おせっかいな役割をする人間がいればこそ、自分で心を奮い立たせたり、自分で心を励ましたりして、人生を修正していく人がいます。前途ある若い人たちに、良き人生を歩んでもらいたいと切望します。


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