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   『教育情報』代表コラム (2008年5月)
孫との散歩で感じた

危機管理

 昨日、幼稚園児の孫2人と一緒に散歩をしました。ちょうど今、建物の建設に取りかかろうとしているのですが、その土地を見に行ったのです。「鯉のぼりを見に行こう」と誘うと、喜んで付いてきました。建設予定地には、勢いが良いので鯉のぼりを立てているのです。少し雨が降ってきましたが、傘を差して3人で出掛けて行きました。
 土地にはまだ何の変化もありませんが、目の前の土地を見ていると、いろいろと今後の構想が湧いてきます。孫たちが、海の方に行きたいと言い出しました。そこから少し先に進むと、海なのです。船溜まりになっていて、通りからも漁船の船影が見えています。男児ですから、海にも船にも興味津々なのだろうと思います。雨は、歩き始めた時よりももう少し降っています。どうしたものかと思いましたが、私は「海に行きたいのなら、傘をたたみなさい」と言いました。すると孫の1人が「雨が降っているんだから、たためない」と言いました。

 危機管理という観点からしますと、小さな子どもが傘を差したまま岸壁の端まで行ったなら、風が吹いた時にはたいへん危険です。傘が風にあおられたら、小さな子どもは簡単に足を取られてしまいます。傘もろとも、吹き飛ばされてしまうかも分かりません。そのまま海に落ちる可能性もあります。海に落ちてしまえば、助けることは容易ではないでしょう。ですから「傘をたたみなさい」と言ったのです。
 子どもが傘を差していると風に吹かれて、海に落ちるといけないからと説明をして、「どうしても海の方に行きたいのなら、傘をたたんで行こうね」と言いました。それでも「濡れたらいけないでしょ。雨が降っていたら傘をささなきゃ」と孫は言います。「傘をたたまないのなら、海へは行ってはいけないよ。海に落ちると危ないのだから」ともう1度説明すると、今度は得心をしたらしく2人揃って傘をたたんで歩き始めました。雨が降っている中、傘を差さずに手に持って歩いているのも少しおかしなものです。

 「雨に濡れて溶けるような子どもになったらいけないよ。『雨にも負けず 風にも負けず』という言葉があるんだよ」と話をしながら、私も孫たちと歩きました。私は傘を差していたのですが、それを見て今度は、「じいちゃんも傘をたたんで」と言います。「背広が濡れて溶けるといけないから、じいちゃんは傘を差しているの」と言いましたが、この言葉では、孫が納得するはずがありません。「子どもは風の子、元気な子。子どもは、少々の風や雨も平気なんだよ。少しくらい濡れても溶けないから大丈夫。身体の大きな大人は、濡れる量が多いから一杯濡れて病気になったらいけないだろう」と話をしました。
 海や船を眺めて帰りかけると、家内がまだ小さい女の子の孫をベビーカーに乗せてやって来ました。私たちの後を追って来たのにそこには誰も居なくて、どこへ行ったのだろうと思っていると、海の方から戻って来る私たちの声が聞こえてきたという訳です。初めは「濡れるといけない」と言っていた孫が、「僕は雨には強いんだ」と言いながら、一生懸命になって小さな赤ちゃんに傘を差し掛けていました。子どもの心に与えるものとは何なのだろうと思います。

 常識から言えば、「雨が降っているから傘を差しなさい」ということになるのでしょうが、常識ではなくして、自分自身の危機管理ということで判断する必要があります。たとえ常識とは異なっていても、他の人が考えることとは違っていても、何を子どもに教えるべきなのかを考えなければなりません。そして、必要なものや必要な処置を判断し、与えられている状況や物事の中で、最善は何なのかを考える力を持たなければなりません。
 そのようなことを一つ一つ日常生活で活かし、次代に伝えることのできる毎日でありたいと思います。


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