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   『教育情報』代表コラム (2009年9月)
ものを動かし

風を入れる

 変化と言いますか、いろいろなものを変えるためには、動かすことが必要な場合があります。動かすことによって、風が入ったり、隠れていた物が出てきたり、澱みを落とすことができたりします。  
 学校に通っている頃なら、席替えがあったりクラス替えがあったりする訳で、会社勤めであるなら配置転換などがある訳です。動かすことにおいて風が起きて、変化が現れてきます。私は、部屋の模様替えは言うに及ばず、『動かす』ということが好きな人間です。それは、若い頃にその癖を付けてもらったからだと思います。
 当時は寮に住んでおりましたが、時折『寮替え』というものがありました。そろそろその寮での生活も落ち着き始めたかと思われる頃になると、別の寮へ移動するよう言い渡されるのです。移動するたびに徐々に荷物が減っていき、いつしか柳行李1つと寝具だけとなって、それらさえまとまればいつでも動くことができる態勢になっていました。それも訓練であったのだと、今振り返って思います。

 そのような時期に、私の力量を試されるようなことがありました。奉職していた事務局内で席替えがあった時のことです。事務所に入ると、机の上には名前が書かれた紙が張ってあって、名前のある席が新しい自分の場所となる訳です。他の職員は、ワイワイと言いながら自分の名前を見付けては、机の中の入れ替えをし始めました。ところが私の名前は見付かりませんでした。
 私の元の机にも他の人がやってきましたから、私は机の引き出しの中身を出さなければなりません。段ボール箱に荷物を入れながら、さてどこへそれを持って行けば良いものかと考えていました。私の名前が書かれた紙がその階では見付からないものですから、上の階にも探しに行きました。それでも私の名前はないのです。席が無いと言う訳にもいかないし…と考えたりしながら、どうすれば良いのか判らないでいると、「ボーっと立っていないで、どこかに座れ」と声が掛かりました。
 「好きな場所に座れば良いんだ」と言ってもらって、室内を見渡してみると、紙の貼られていない机もありましたから、居心地の良さそうな場所を選んで座ってみました。そこは2年先輩の隣の席で、その先輩は、最も優秀なメンバーと言われている内の1人であったのです。その席を1年ほど堅持し、その先輩とも仲良くして頂いた記憶があります。このようにして、何とか自分の居場所を見付けることができました。
 他の人たちの名前はあるのに私の名前だけがないと判った時には、「私に辞めろということなのだろうか」とさえ思いましたが、一方で、「どうして、私が今このような状況になっているのだろうか」とも考えました。素直に気持ちを出したから、自分の居場所を確保することができました。その時のことを思い出すたびに、すぐに挫けてしまう人間かどうか、試してもらっていたのだろうと感じています。

 会社の空気がマンネリ化していることを危惧して相談した人に対して、「物を動かして風通しを良くするように」と指導が出されたことがあったのを覚えています。今までに試したことがあるかと尋ねられた時に、相談者は、「何かを動かそうと思っても、長く勤めている人たちが、使い勝手が悪いとか不便だと言うものですから、できないんです」と答えていました。「それでは企業は動きません。だから物を動かす必要があるのです」と話をされていました。物を動かすことによって、何年もの間に蓄積されたものに変化を与えることができます。

 物を動かすことは人が動くことであり、人が動けばそれに伴って空気が動きます。空気が動いて流れができれば、そこに風が起こります。風を入れるとはそのようなことなのです。自己の変革であれ、家庭の変革であれ、変革を目指す時には、『動かす』ことから始めてみれば良いのです。


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