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自宅からほど近い場所に入り江があって、近辺をよく散歩しています。岸壁から眺める景色はなかなか興味深く、少し時代を逆戻りするような雰囲気を漂わせています。向こう岸には造船所が何軒かあり、クレーンが動いていたり、倉庫が並んでいたりしていますし、手前は船だまりになっていて、漁船やはしけなど、いろいろな形をした船が所狭しと停泊していたりします。毎日同じ景色を見ているようでいて、潮の満ち引きによって、違った景色に感じられるのも面白いものです。
時折、船から船へと伝わって移動している人がいたり、隣の船にロープを結びつけたりしている光景を目にすることがあります。岸壁からは幾本かのタラップが海に降りていて、船の人たちは、このタラップを使って船に乗り降りしています。タラップから離れた場所に停泊した船に行くには、他の船の上を通らなければなりません。人の船の上を通っても、人の船にロープをつないでも、それはお互い様で済んでいるのでしょう。「仲が良いんだな」と思いながら、その様子を見ています。
タラップの近くに船を停めていると、何人もの人が、その船の上を渡って行くことになりますし、ロープや荷物をポーンと置いたりされる訳なのですが、そのことを嫌だとも何とも感じないのだろうと思います。タラップの近くに船を停めれば、自分が行き来するのも物を運び込むのも楽なのですが、人や荷物が自分の船の上を通ることになります。また離れた場所に停めれば、人が自分の船の上を行き来することはなくても、自分が行くにも物を運ぶにも苦労をしなければなりません。自分のことしか考えない人では、このような場所に船を停めることはできないでしょうし、海の生活は難しいだろうと思います。
船の人たちは、自分の船を大切にするのと同様に人の船も大事にしていますし、人のこともよく考えているのが判ります。ある時、船だまりで印象深い光景を目にしました。日常的に行われているのでしょうが、その時に初めて見た気がしました。それは自分の船を出した後のことなのです。
船を出した人が、船が出て空いた場所に隣の船を引き寄せて、その場所を埋めていました。次に空いた場所には、またその隣の船を引き寄せるというように、そのようなことを繰り返しながら確実に船を詰めて、初めて自分の作業に取り掛かっていました。後で誰も困ることがないようにと配慮をしているのです。自分中心の考えではなく、自分は苦労しても次に来る人に心を寄せているのだな、と感じました。
船で仕事をしていると、ひと度海に出て行けば、「板一枚下は地獄」と言われる厳しい環境下に置かれます。海という孤立した状態の中で命を張って仕事に従事している人たちは、その環境の中で生きていく知恵を身に付けていきます。それが、人と仲良くしていく知恵であり、互いに協力をしあう知恵ではないかと思うのです。日頃から、人間関係の構築がきちんとなされているのだろうと思います。散歩をしていても、ここにも1つの人間模様を見ることができる、という思いになります。
数日前までその職場にいたのだけれども、いなくなっても何ら支障がある訳ではないし、いたことすらすぐに忘れられてしまう人もいれば、いつまでも惜しまれる人もいます。存在感が有るか無いかは、その人がその場からいなくなった時によく判ります。自分のことだけに一生懸命である人と、人や周りのことを思って一生懸命である人との違いがあるのではないかと思います。
いずれはこの姿形が消える時期が来るのでしょうが、少しは人の心に残り、思い出してもらえるようでありたいと思うのです。自分のことに生きるのではなく、人のことを思って生きることができるよう、小さな事からでも努力をしていきたいと思います。
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