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   『教育情報』代表コラム (2010年7月)
動物の習性に学ぶ

 太極拳と言うのか拳法と言うのか、よく、虎の構えとか鶴の構えとか蛇の構えなど、動物の動きを基本動作に挙げて行っているスポーツがあります。動物の習性から習って、それを人間の運動訓練に取り入れている訳なのです。運動ばかりでなく、人間社会の中に取り入れてみると良い動物の習性があります。私は若い頃、そのようなことを教えてもらったことがあります。
 生活の中で身近にいる犬や猫を見るだけでも、それぞれの習性の違いが判ります。猫は単独で行動しますし、誰にでも慣れるということがまずありません。また猫は、群れて行動するということもありません。野良猫が数匹いても、少しも恐くはないのです。
 一方、犬は飼い主に従順で、人によくなつきます。また群れるのが習性で、群れの中の自分の位置を自覚しているところがあります。リーダーであるのか、従う側であるのか、順位はどこであるのかを知っています。我が家にも十年来飼っている犬が居て、孫が生まれて家族の注目がそちらに向いた時には、一時期はしっぽの毛がなくなるほどストレスを感じていたようです。それでも今ではすっかり、自分の位置を自覚しています。

 私が若い頃に師事していた先生は、ご自宅に犬を6匹飼うほど、たいへんに犬がお好きでありました。ある時期、私が、その6匹もの犬の世話をするようにと仰せつかったことがありました。私は、本当は犬が嫌いであったのですが、犬当番になってしまったのです。
 その時に師は、「犬の習性を見ることが、君の将来に必ず役に立つよ」と仰られました。その当時は、師の言葉の意味を理解することはできませんでしたし、どうして犬嫌いの私に、よりによって犬当番をさせるのだろうかと、いぶかしくさえ思っていました。
 犬当番は、何人かの人間で行うのではなく、決められた人間が1人で行うものでした。犬は苦手ではありましたが、犬当番であればこその特典もあって、師が都心を離れて別荘で静養される時には、犬当番の私もお供をさせて頂く機会を得ることができました。そして、楽しくかつ得難い経験をいくつもさせて頂きました。その当時を思い返してみますと、犬当番になった先輩方は、そうそうたる方々であったと思います。

 ちょうどそのような頃、私はまだまだ若かったのですが、政界や財界の方々、あるいは時の権力者と言われる方々など、いろいろな方にお会いする機会がありました。社会的地位があり、多くの人間を動かしている人には、何となくピリッと感じさせるものがあったな、と思い返します。いわゆるオーラがあるのです。中には、世間の評判は高くてもオーラが感じられない人もいて、実際にはそれほどでもないのでは、と思われる人もいました。『畏敬』という言葉があるくらいですから、近寄りがたいほどのオーラを感じさせる人は、他の人におそれを感じさせる人でもあるのだと思います。リーダーとは、かくあるべきなのでしょう。
 犬は、1匹が吠えると周辺の犬も一斉に吠え出すということがあります。そして複数いればリーダーを作って、リーダーに従って行動しようとします。このような犬の習性を真似れば、個々の力は小さくとも、大きなものに挑戦することもできます。また、猟をする犬もいれば、牧場の動物を追い込む犬もいれば、人の癒しになる犬もいるように、適材適所でそれぞれの特性が活かされて、犬は人の役に立っていきます。

 私は、今頃になってようやく、師が仰って下さった言葉の意味が解り、犬当番をさせて頂いた意義が解ってきました。人間関係の構築であるとか組織を構築するとか、人に動いてもらうには、犬の習性から学び取ったことが大いに活かされべきだと思うようになりました。『万象我師』の言葉の通り、人間は知恵で動物の習性を活かしていきたいものです。


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